熊谷鍛冶屋のものづくり

職人としての探求心で、より優れた道具を生み出す。
それが熊谷鍛冶屋の原点です。

現場の声に応える鍛冶屋としての仕事

熊谷鍛冶屋は岩手県大船渡市で十代続く鍛冶屋。
当代の熊谷秀平の祖父の代からは漁具製造の会社として株式会社熊谷鉄工所となりました。
熊谷鍛冶屋の多くの製品はアワビ漁に使う鉤(カギ)と呼ばれる道具と牡蠣用のナイフの製造技術を応用しています。
岩場を狙うアワビ漁では鉤を岩に引っ掛ける事も多く、強靭な刃先でなくては漁仕事が滞ってしまいます。牡蠣ナイフも同様に岩場での漁や、殻を剥く際の効率の良い作業には刃先の頑丈さと切れ味が求められます。
わたしたちは鍛冶屋の焼き入れの技術を漁具に活かし、岩を相手にも折れず曲がらない刃の形、持ち手の握りやすさ、丈夫さを追求しています。

また、工夫の中から生まれたメカブカッターは、ワカメの茎からメカブだけを切り取れる、刃物作りのノウハウを生かして開発した自慢のオリジナル製品です。
使い勝手の良い道具で漁業者の仕事の手助けがしたい、との考えから現場の声を反映させた漁具の改良を続け、どの製品も多くの漁業関係者から好評をいただいています。

アワビ鉤。漁業者のニーズに合わせて製造するため地域によって形状が異なる。
左/宮城、右/久慈
メカブカッター。独特の形状により、ワカメの茎からメカブだけを切り取れる。
牡蠣ナイフは使い手によって扱い方が異なるので握りも様々。
左/I型城、中/T字型、右/L字型
製造は会長の熊谷鈴男と息子で社長の秀平の二人で行う。

漁具製造の技術を除草器具に応用

20年程前からは漁具の技術を生かした園芸用具を開発にしています。
専門で行う漁業とは異なり敷地や庭の草取り作業は、わたしたちにとっても日常的なことで、植物が成長する時期には作業が追いつかないほどに草が伸びます。
こと炎天下での効率の悪い作業はあまりに辛く、どの道具でも使いにくさを感じていました。わたしたちのみならず、近隣の方々を見ても草取りに苦労していましたし、昨今はガーデニングや家庭菜園に取り組まれる方も多いようで、それなら、と使いやすい草取り鎌の開発を思い立ちました。

草取り作業に用いる鎌は石や硬い土が相手です。硬さに負けない強靭な刃が求められ、それには漁具の焼入れ方法が適していると考えました。
まずはじめに近所で販売していた殆どの草取り用の鎌を買ってきては片っ端から試し、気が付いた改良点から試作品を製造し草取りをする...それを何度も繰り返しました。私有地だけではテストに足りず、近隣の敷地をお借りして草を刈るのでご近所さんからは大変喜ばれました...。

究極を目指して

開発初期には他の鎌と同様の平刃を作っていました。しかし、平刃では草の根が切れて、そこからまた草が生えてきます。いくら刈ってもまた簡単に生えてくるのでは、ちっとも楽にはならない。草の根が残らないよう根こそぎ刈るにはどうすればいいのか、と形状や角度、持ち手の幅などの試行錯誤を繰り返し、100回以上の試作を重ねました。やがて、縦に使えば力を入れなくとも細い刃板で土をかき起こし、横に使えばギザギザにひっかけて草を根こそぎとれる。おおよその改良点を網羅した究極の完成版とも言える鎌が完成し、それを「草取カギカマ」と名付けました。

開発中の草取カギカマ。試行錯誤の積み重ねで生まれた究極の形

苦戦から、年間30,000本のベストセラーへ

さっそく完成品を持ち販売店へ提案しましたが、今までとは違う珍しい形状のため、試されることもなく評価には繋がりませんでした。
手にして一度でも使ってもらえればこの良さが伝わるはずだ...。わたしたちには絶対の自信がありましたが、長い間、販路が広がらず苦戦を強いられました。
否定的な意見が多かった中、近所の道の駅から販売の声を頂戴しました。その頃には、本当に売れるのか?と不安が募っていましたが、売り場の一角に小さなスペースを設け、いざ販売してみるとあまりの売行きに担当者が驚きの電話をかけてくる程でした。
購入して実際に使った方の「面白いほど草が取れる」との声が口コミで広がり、それをきっかけに他の道の駅からも注文が入り、取扱い店舗が増えました。今では全国の道の駅や、多くのホームセンターでお取扱いいただき、年間30,000本が売れています。

良い仕事のための仕事

熊谷鍛冶屋の製品は過酷な場所を得意としています。
「大事に丁寧に使わせていただきます」とお客様は仰います。しかし、わたしたちとしてはよりハードにお使いただきたいと考えています。
わたしたちの製品は古から伝わる鍛冶屋の技術で焼入れをした強靭な刃。石の上で叩いても、刃こぼれしたり曲がりが起こりにくく、切れ味も抜群です。
道具である以上、使う人の仕事がはかどり、丈夫で、長持ちすること。
それが、職人としての一番の喜びと考えています。

左手用、より頑丈なステンレス製などバリエーションも開発し多様なニーズに応える。